2026.08.23

はじめて人を雇った。あるいは、新しいスタッフを採用した。そのとき「試用期間を3か月にしよう」と決めた経営者の方は多いと思います。でも、ふと考えると「試用期間中って、何ができて何ができないんだろう?」と疑問に感じたことはないでしょうか。「試用期間だから、合わなければすぐ辞めてもらえる」「試用期間中は社会保険に入れなくていい」——実はこういった誤解が、後々大きなトラブルにつながるケースが少なくありません。今日は、試用期間の正しい運用について、一つずつ丁寧にお話ししたいと思います。
試用期間とは、会社が採用した人の能力・適性・勤務態度などを実際の業務を通じて確認するための期間のことです。法律用語では「解約権留保付労働契約(かいやくけんりゅうほつきろうどうけいやく=解雇する権利を会社側が一定の範囲で留保している雇用契約)」と呼ばれます。
ここで大切なのは、試用期間中であっても「雇用契約はすでに始まっている」という点です。つまり、労働基準法(ろうどうきじゅんほう=働く人を守るための国のルール)をはじめとする各種の法律は、試用期間中もきちんと適用されます。「試用期間だから何でもできる」という認識は、残念ながら法律上は通用しません。
顧問先の経営者の方からも「試用期間中なら辞めさせやすいと思っていた」というお話をよく伺います。その気持ちはとてもよく分かるのですが、実際には試用期間中にできることとできないことが、法律でしっかりと線引きされています。1つずつみていきましょう。
試用期間中に会社が正当に行えることは、大きく次の3つです。
これらは、就業規則や労働条件通知書(ろうどうじょうけんつうちしょ=働く条件を書面で示した書類)に試用期間の旨と評価基準をあらかじめ明記しておくことが前提になります。口頭だけでは後からトラブルになりやすいため、書面での明示が欠かせません。
では、「試用期間だから」という理由だけではできないこと、つまり誤解されやすいNG運用を確認しましょう。
1. 自由に解雇・本採用拒否できるわけではない
試用期間中でも、解雇や本採用拒否には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。最高裁判所の判例(三菱樹脂事件・1973年)でも、試用期間中の解雇は通常の解雇よりは広い裁量が認められるものの、「自由に辞めさせられる」わけではないと明確に示されています。
たとえば「なんとなく合わない気がした」「会社の雰囲気に合わなそう」という感覚的・抽象的な理由だけでは、不当解雇と判断されるリスクがあります。具体的にどのような問題行動があったのか、会社が試用期間中にどのような指導を行ったか、その記録を残しておくことが大切です。
また、試用期間が始まって14日を超えた場合は、通常の解雇と同じく30日前の予告(または解雇予告手当の支払い)が必要になります(労働基準法第20条・第21条)。「今日で終わりにしてほしい」と突然告げることは、法律上認められていません。
2. 社会保険・雇用保険の加入を「試用期間中は免除」できない
これも非常によくある誤解です。健康保険・厚生年金保険(社会保険)は、所定の条件(週の所定労働時間・月の所定労働日数など)を満たしていれば、試用期間中も初日から加入義務があります。「本採用になってから入れよう」は法律違反になります(詳しくは後述)。
雇用保険(こようほけん=失業したときなどに給付を受けられる保険)も同様で、31日以上の雇用が見込まれ、週の所定労働時間が20時間以上であれば加入が必要です。試用期間であることは、この要件の例外にはなりません。
3. 試用期間を際限なく延長することはできない
「もう少し様子を見たいから」と試用期間を何度も延長することは、原則として認められていません。就業規則に延長の要件と上限を明記したうえで、合理的な理由がある場合に1回に限り延長できる、という運用が実務上の限界の目安とされています。試用期間の長さについては、あらかじめ就業規則に明確に定めておくことが必要です。
4. 試用期間中の不利益な条件を口頭だけで伝えることはできない
労働条件通知書には、試用期間の有無・期間・その間の賃金・本採用の条件なども明示することが求められます。「口で言えばいい」という時代ではなく、2024年4月からは労働条件明示のルールがさらに強化されています。書面または電子的な方法での明示が必須です。
この記事を書いている社労士です

試用期間は「雇用契約がすでに始まっている期間」であり、解雇や社会保険加入について法律のルールがそのまま適用されます。就業規則への明記・労働条件の書面明示・評価記録の習慣という3つの備えで、会社と従業員の双方を守る採用の土台を整えましょう。お気軽にご相談ください。
特定社会保険労務士/キャリアコンサルタント
山本 美紀
ミッシュ社会保険労務士事務所 代表/元教師の教育型労務コンサル
最終更新日:2026年8月23日
初回相談無料
「2か月の試用期間だから、社会保険は入れなくていいんですよね?」というご質問は、実際に経営者の方からよく伺います。この背景には、社会保険(健康保険・厚生年金保険)のルールに「期間の定めのある契約の特例」があることへの、少し惜しい理解があります。ここを正確に押さえておきましょう。
健康保険法・厚生年金保険法では、「2か月以内の期間を定めて使用される人」は、被保険者(ひほけんしゃ=社会保険に加入する義務のある人)から除外できる、という規定があります。つまり、当初の契約期間が「2か月以内」に明確に限定されていれば、その期間中は社会保険の加入を猶予することが、法律上認められています。
ただし、この特例には大切な前提と注意点があります。以下を必ず確認してください。
つまり、一般的な「試用期間3か月・その後本採用」という採用の流れであれば、この特例は使えないというのが原則的な考え方です。「試用期間」と「2か月以内の短期契約」は、法律上まったく別の概念です。混同すると、社会保険料の未納・遡及加入(さかのぼっての加入)という手間とリスクに直結します。
なお、2024年10月からは、101人以上の企業では週20時間以上・月額賃金8.8万円以上などの要件を満たすパート・有期雇用の方への社会保険適用が拡大されており、2026年10月にはさらに51人以上、2027年10月以降勤め先の従業員数が36人以上の企業に対象が広がる予定です。短期・有期の雇用形態であっても、加入要件の確認が従来以上に求められる時代になっています。
「うちの採用の仕方でこの特例が使えるかどうか分からない」という場合は、契約の実態を含めて個別に判断する必要がありますので、専門家にご相談いただくことをおすすめします。
【参考・出典】厚生労働省「社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入手続について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/shakai-hoken/index.html
それでは、経営者として具体的に何を整えればよいのでしょうか。1つずつみていきましょう。
正確な運用の要件については個別の状況によって異なる部分もありますので、自社の就業規則の内容や具体的な対応に迷ったときは、専門家にご相談いただくことをおすすめします。
試用期間は、会社と従業員がお互いの適性をたしかめるための、大切な「出会いの期間」です。この期間をうまく活用することで、採用のミスマッチを減らし、長く一緒に働ける関係を築くことができます。
一方で、「試用期間だから何でもできる」という思い込みは、法律上の問題はもちろん、従業員との信頼関係を壊すことにもつながります。社会保険の加入逃れや、理由のない解雇は、会社にとっても大きなリスクです。
会社を守ることと、従業員を守ること——この2つは対立するものではなく、きちんとしたルールを整えることで、両方を同時に実現できます。まずは自社の就業規則や採用書類の内容を、一度見直してみるところから始めてみてください。「うちの就業規則でこれは大丈夫?」と思ったら、どうぞお気軽にご相談ください。
【参考・出典】
この記事は、社会保険労務士として日々の労務のご相談のなかで実際にお受けするご質問をもとに書いています。最新の法令や個別のご事情については、お気軽にご相談ください。
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