2026.07.03

はじめて人を雇った。採用に力を入れてきた。なのに、ベテランのスタッフが突然「介護のために辞めます」と言ってくる——そんなご経験をされた経営者の方も多いのではないでしょうか。
介護を理由とした離職は、日本全体で年間約9万人から10万人規模で起きていると言われています(総務省「就業構造基本調査」)。とくに介護業界では、スタッフ自身が家族の介護を担うケースも少なくなく、「職場で介護の支援制度を整えていなかったばかりに、大切な人材を手放してしまった」という声を、私もよく相談として受けます。
子育てが終わったと思ってしばらく仕事に重きを置けた生活ができていた矢先、次は親の介護というライフステージがやってくる・・・。長年会社で力になっていくれていた社員も、1歳ずつ年は平等にとるもの。社員の年令層も上がってくることは仕方がありません。中には、W(ダブル)ケアといって、30代から40代の働き盛りの世代が、子育てしながら親の介護にも直面するケースもあるのです。
今日は、介護離職を防ぐために経営者がまず整えておきたい「3つのこと」について、やさしくお伝えしたいと思います。法律の話も出てきますが、難しい言葉は一つひとつ噛み砕いてご説明しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
介護離職の一番の原因は、「仕事を続けながら介護ができるとは思えなかった」という見通しの悪さにあります。制度があっても、使い方が分からない。相談できる人がいない。「休んだら迷惑をかける」と一人で抱え込んでしまう——そういった状況が重なって、最終的に「辞めるしかない」という選択につながっていきます。
逆に言えば、経営者が「うちの会社には制度があるよ」「困ったら相談してほしい」と先に示しておくだけで、離職の選択肢をそもそも考えなくて済む従業員が生まれます。まずは「知ること」と「伝えること」が出発点です。1つずつ見ていきましょう。
介護休業(かいごきゅうぎょう=家族の介護のために仕事を一定期間お休みできる制度)は、「育児・介護休業法(いくじかいごきゅうぎょうほう)」という法律に基づいて、一定の要件を満たす従業員に認められた権利です。
ただし、「申し出れば誰でも即座に取得できる」というものではなく、いくつかの前提条件があります。主なものを整理しておきましょう。
なお、法律上は一定の要件を満たした従業員からの申し出を、会社は基本的に断ることができません。ただし、労使協定(ろうしきょうてい=会社と従業員代表が書面で取り決める約束ごと)を結んでいる場合には、一部の従業員を対象外にできる例外があります。
また、介護休業はあくまで「介護の体制を整えるための休業」という位置づけです。介護休業を93日取得した後も、仕事と介護を続ける必要は十分にあります。そのため、法律では介護休業とは別に、次のような制度も会社に義務づけています。
これらは「会社が独自に設けているサービス」ではなく、法律上の義務です。「うちにはそんな制度はない」では済まない話ですので、まずは現状を確認してみてください。
ここまでは従業員が使える制度の話でしたが、実は2025年(令和7年)4月1日の法改正で、会社側が果たすべき義務も新たに加わりました。「経営者がまず整えること」という観点で、特に押さえておきたい3点をご紹介します。
1つ目は、雇用環境整備の義務です。会社は、介護休業などの申し出がスムーズに行われるよう、次の①〜④のうち少なくとも1つを実施しなければならなくなりました。①介護に関する制度についての研修の実施 ②相談体制の整備 ③自社の利用事例の収集・提供 ④制度の利用促進に関する方針の周知、のいずれかです。「制度はあるのに誰も使ったことがない」という状態を防ぐための義務、とイメージしていただくと分かりやすいかと思います。
2つ目は、40歳に到達した従業員などへの早期の情報提供義務です。これまでの個別周知は「従業員から介護に直面したと申し出があったとき」が起点でしたが、この改正により、申し出がなくても、40歳に達する年度など早い段階で、介護休業制度の内容や申出先、介護休業給付金について情報提供することが義務づけられました。「介護に直面してから知る」のではなく、「直面する前から知っておいてもらう」ための仕組みです。
3つ目は、介護のためのテレワーク導入です。こちらは義務ではなく努力義務(法律上、実現に向けて努めることが求められるもの)ですが、要介護状態の家族を介護する従業員がテレワークを選べるよう、措置を講じることが求められています。
これらは大企業・中小企業を問わず、すべての会社に適用されています(テレワークの努力義務を除き、猶予期間の定めはありません)。「介護休業の制度を理解する」ことに加えて、「会社としてどう周知し、どう体制を整えるか」まで含めて対応することが、これからの経営者に求められている、とお考えいただければと思います。
この記事を書いている社労士です

介護離職は年間9〜10万人規模で発生しており、その背景には「仕事と介護を両立できる見通しが持てない」という状況があります。経営者がまず整えるべきは、①介護休業・介護休暇・短時間勤務等の制度を正しく理解すること、②就業規則に介護関連の規定を明記・見直すこと、③相談しやすい職場の雰囲気をつくることの3点です。2025年4月の法改正により、会社側の周知義務なども新たに加わっています。お気軽にご相談ください。
特定社会保険労務士/キャリアコンサルタント
山本 美紀
ミッシュ社会保険労務士事務所 代表/元教師の教育型労務コンサル
最終更新日:2026年7月4日
初回相談無料
就業規則(しゅうぎょうきそく=会社のルールブックのようなもの)に、介護休業・介護休暇・短時間勤務等の制度がきちんと書かれていますか?
法律で制度が定められていても、会社の就業規則にその内容が明記されていないと、従業員は「うちの会社で使っていいのかどうか」が分からないままになります。「制度はある。でも言い出しにくい」「どう申し出ればいいか分からない」——この状況が、相談をためらわせ、ひいては離職へとつながっていきます。
就業規則には、少なくとも以下の点を明確に盛り込んでおくことをおすすめします。
常時10人以上の従業員を雇用する会社は、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が法律で義務づけられています。10人未満の会社であっても、ルールを文書化しておくことは、トラブルを防ぐ上でとても大切です。
「就業規則はあるけど、介護の制度が古い内容のまま」「そもそも何年も見直していない」という場合は、これを機に見直してみることをおすすめします。制度改正に対応できていない就業規則は、実際の場面でのトラブルのもとになりかねません。正確な内容については、社会保険労務士にご相談ください。
制度を整えるだけでは、実は半分しか解決になりません。研修でこの話をすると「制度があっても使えない雰囲気があって…」という声を必ずと言っていいほど聞きます。
従業員が介護の悩みを抱えたとき、最初に「会社に言っていいんだ」と思えるかどうか——これが、離職を防ぐ上で実は一番大きな分かれ道になります。
具体的に経営者ができることを挙げてみましょう。
なお、「介護を理由に退職を勧めた」「介護休業の申し出をしたら評価を下げた」といった行為は、法律上のハラスメント(妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメント)に該当する可能性があります。こうした行為が職場で起きないよう、経営者自身が正しく理解しておくことも必要です。
介護離職を防ぐために、経営者がまず整えておきたい3つのことをまとめます。
大切なスタッフが「辞めるしかない」と思い詰める前に、「ここなら続けられる」と感じられる職場を、一歩ずつ整えていきましょう。「まず何から手をつければいいか分からない」という方は、お気軽にご相談ください。一緒に考えます。
参考・出典
・厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
・厚生労働省「仕事と介護の両立支援対策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/index.html
・厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし〜令和7年4月1日、10月1日施行対応〜」(2025年4月の法改正の詳細)
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000355354.pdf
・総務省「就業構造基本調査」(介護離職者数の参照元)
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/index.html
この記事は、社会保険労務士として日々の労務のご相談のなかで実際にお受けするご質問をもとに書いています。最新の法令や個別のご事情については、お気軽にご相談ください。
介護と仕事の両立、お気軽にご相談ください
従業員から介護の相談を受けたとき、会社として何を整えておけばよいか。介護離職防止を専門とする社労士が、御社の状況に合わせてお答えします。
初回相談無料
© ミッシュ社会保険労務士事務所 All rights reserved.