労務管理と社会保険の手ほどき
〜はじめての経営と労務のあいうえお〜

2026.07.20

トラブルにならないための入社手続き完全ガイド


トラブルにならないための入社手続き完全ガイド

初めて人を雇った。あるいは、これから採用を考えている。そんな経営者の方から、こんなご相談をよく受けます。「入社の手続きって、何をすればいいんでしょう?」「書類は何を集めればいいのか、正直よく分からなくて……」。

労務の世界では、入社前後の手続きを一つひとつ丁寧に進めることが、後々のトラブルを防ぐ一番の近道です。今日はそんな「入社手続き」のお話をしたいと思います。入社日までに会社が準備すること・確認することを、順を追って整理していきましょう。


入社手続きで会社がつまずきやすいポイントとは

採用が決まると、つい「あとは来てもらえれば大丈夫」と思いがちですが、実は入社日までにやるべきことは思った以上にたくさんあります。顧問先の経営者さんからも「入社してから慌てて書類をそろえた」「提出の期限を過ぎてしまっていた」というお話をよく伺います。

手続きが遅れると、従業員が健康保険資格確認書(健康保険証)をすぐに受け取れなかったり、給与計算に影響が出たりすることがあります。会社にとっても、新しく入った方にとっても、スムーズに始められる環境を整えることが大切です。1つずつ確認していきましょう。

入社前に会社が準備すること

まず、入社日よりも前に会社側で準備しておくことを確認しましょう。

  • 労働条件通知書(ろうどうじょうけんつうちしょ)の作成:「労働条件通知書」とは、給与・勤務時間・休日・仕事の内容など、働く上での大切な条件を書面でお知らせするものです。法律上、雇用契約を結ぶ際に必ず交付しなければなりません。口約束だけでは後から「聞いていた話と違う」というトラブルのもとになります。
  • 就業規則(しゅうぎょうきそく=会社のルールブックのようなもの)の確認・共有:常時10人以上の従業員がいる会社では、就業規則の作成・届け出が義務となっています。10人未満でも、ルールを文書化しておくことで双方の認識のずれを防ぐことができます。入社時に内容を説明し、確認してもらいましょう。
  • 必要書類の案内:入社する方に事前に提出してもらう書類を、あらかじめリストにして伝えておくとスムーズです(詳しくは次のセクションで説明します)。
  • 給与振込口座の確認:給与を銀行振込で支払う場合、振込先の口座情報を事前に確認しておく必要があります。初月の給与計算に間に合うよう、早めに確認しましょう。

入社時に従業員から受け取る書類

入社する方から受け取る書類にはいくつかの種類があります。それぞれ目的が異なりますので、「何のために必要なのか」も一緒に確認していきましょう。

  • マイナンバー(個人番号):社会保険や雇用保険の手続きに必要です。マイナンバーカードまたは通知カードと、本人確認書類(運転免許証など)の写しを受け取ります。取り扱いには厳重な管理が必要ですので、社内でのルール整備も合わせて確認してください。
  • 扶養控除等申告書(ふようこうじょとうしんこくしょ):「扶養控除等申告書」とは、所得税の計算に必要な書類で、家族の状況(配偶者や子どもの有無など)を申告するものです。給与計算を行う前に受け取っておく必要があります。
  • 雇用保険被保険者証(こようほけんひほけんしゃしょう):「雇用保険被保険者証」とは、過去に雇用保険(=働けなくなった時などに給付される保険)に加入していた際に発行されるカードです。以前の職場で発行されたものがあれば、提出してもらいます。初めて働く方や紛失した場合は手続きの際に再発行できます。
  • 年金手帳または基礎年金番号通知書:厚生年金保険(こうせいねんきんほけん=会社員が加入する公的な年金の仕組み)の手続きに必要です。なお、2022年4月以降は新たな年金手帳の発行が終了しており、現在はマイナンバーカードや基礎年金番号通知書で確認することが多くなっています。
  • 住民票記載事項証明書または住民票の写し(必要な場合):住所確認のために求める会社もあります。必須かどうかは会社の方針によりますが、求める場合は事前に案内しておきましょう。
  • 通勤経路・交通費の申請書(会社独自の書式):通勤手当を支給する場合は、経路と費用を確認するための申請書を受け取ります。
  • 資格証明書、免許証等(原本の写し可):運転免許証、業務に就くために必要な資格証明書(保育士・介護福祉士・危険物取扱者など)も予めコピーを提出してもらい、資格の有無も確認しておきましょう。有効期限があるものは期限にも注意が必要です。

この記事を書いている社労士です

山本 美紀

はじめて採用を行う経営者の方に向けて、入社手続きの流れを整理した記事です。入社前の労働条件通知書の作成から、マイナンバーなど従業員から受け取る書類、社会保険・雇用保険の届け出期限まで、手続きの全体像をわかりやすく解説しています。書類や手続きを丁寧に進めることが、後々のトラブル防止と信頼関係の構築につながります。お気軽にご相談ください。

特定社会保険労務士/キャリアコンサルタント

山本 美紀

ミッシュ社会保険労務士事務所 代表/元教師の教育型労務コンサル

最終更新日:2026年7月20日

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入社後すみやかに行う社会保険・雇用保険の手続き

書類を受け取ったら、次は行政機関への届け出です。これには期限がありますので、入社後できるだけ早く手続きを進めることが大切です。

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続き

一定の条件を満たす従業員(正社員、または所定の労働時間・日数を超えるパートタイム労働者など)は、健康保険と厚生年金保険に加入する義務があります。加入手続きは入社日から5日以内に、日本年金機構(にほんねんきんきこう)または加入している健康保険組合に届け出る必要があります。手続きが遅れると、従業員が健康保険証を受け取れず、医療機関の受診に影響が出ることがあります。

雇用保険の加入手続き

雇用保険(こようほけん=失業した際や育児・介護で休業する際などに給付を受けられる保険)も、一定の条件を満たす従業員については加入が必要です。手続きは雇い入れた月の翌月10日までに、ハローワーク(公共職業安定所)へ届け出ます。なお、加入対象かどうかは週の所定労働時間や雇用見込み期間によって異なりますので、不明な場合は専門家にご確認ください。

労働保険(労災保険)の手続き

労災保険(ろうさいほけん=仕事中や通勤中のケガ・病気を補償する保険)は、原則としてすべての従業員が対象です。保険料は全額会社負担ですが、雇用した事実が生じた時点で加入義務が発生します。初めて人を雇ったとき、最初に労働保険の成立の届出を労働基準監督署に行いますが、労災保険については、入退社があるたびにその都度何か手続きをすることはなく、1年に一度、労働保険料の精算(労働保険料の年度更新と言われるもの)を行うことで足ります。

入社時に伝えておきたいこと・確認しておきたいこと

書類や手続き以外にも、入社時に従業員の方へ丁寧に伝えておくと、その後のすれ違いを防ぐことができることがあります。

  • 試用期間(しようきかん)の有無と期間・条件:試用期間がある場合は、期間・給与・本採用との違いなどをあらかじめ明確に説明しておきましょう。試用期間中であっても、労働基準法(ろうどうきじゅんほう)の保護は適用されます。
  • 給与の支払日・締め日:「いつ・どのくらいもらえるか」は、働く人にとって大切な情報です。最初に丁寧に説明しておくことで、不安や誤解を防げます。
  • ハラスメント防止に関する方針:法律上、一定規模以上の事業主はパワーハラスメント防止のための措置を講じることが義務づけられています(中小企業も2022年4月から義務化)。入社時に、会社としての方針や相談窓口を伝えておくことが大切です。
  • 緊急連絡先の確認:万が一の際に備えて、緊急時の連絡先を確認しておきましょう。

まとめ:入社手続きは「備え」であり「信頼」のはじまり

入社手続きは、会社と従業員の関係がはじまる最初の場面です。書類の受け渡しや届け出だけでなく、「この会社はきちんとしている」と感じてもらえるかどうかが、その後の信頼関係にも影響します。

今日ご紹介した内容を整理すると、次のような流れになります。

  • 入社前:労働条件通知書の準備・就業規則の共有・必要書類の案内
  • 入社時:マイナンバー・各種書類の受け取り・給与振込口座の確認
  • 入社後すみやかに:社会保険・雇用保険・労災保険の手続き(それぞれ期限あり)

手続きの期限を守ることはもちろんですが、それと同じくらい大切なのが、「従業員の方が安心して働きはじめられる環境を整える」という視点です。会社を守ることと、働く人を守ることは、対立するものではなく、どちらも同時に実現できるものだと私は考えています。

「うちはこれで合っているのかな?」「何か抜けているものがあるかもしれない」と感じたら、ぜひ一度ご相談ください。一緒に確認していきましょう。

参考:厚生労働省「労働契約・労働条件に関する情報」/「雇用保険制度」/日本年金機構「被保険者の資格取得の手続き

この記事は、社会保険労務士として日々の労務のご相談のなかで実際にお受けするご質問をもとに書いています。最新の法令や個別のご事情については、お気軽にご相談ください。

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