2026.07.02

「うちのスタッフが、親の介護で仕事を休みたいと言ってきた。どうすればいいんだろう?」
はじめてそういう相談を受けたとき、どう対応したらいいか分からなくて困った、という経営者の方は少なくありません。特に介護業界で働く皆さんにとっては、ご自身のスタッフが「介護する側」になるという場面は、決して珍しくない話です。
今日は、従業員から介護の相談を受けた経営者の方に、まず知っておいていただきたい「介護休業(かいごきゅうぎょう)」の基本についてお話ししたいと思います。難しい法律の話を、できるだけかみ砕いてお伝えしますね。
介護休業とは、育児・介護休業法(いくじ・かいごきゅうぎょうほう=子育てや家族の介護をしながら働き続けられるよう定めた法律)にもとづく制度で、家族を介護するために仕事を一定期間休むことができる権利です。
日本では、仕事と介護を両立できずに退職してしまう、いわゆる「介護離職」が社会問題になっています。総務省「就業構造基本調査」によると、介護・看護を理由に離職する人は年間約10万人にのぼるとされています。せっかく育てた大切なスタッフが、介護をきっかけに辞めざるを得ない状況は、会社にとっても大きな損失です。
介護休業は、そうした「介護か、仕事か」という二択を迫らないための制度として設けられています。経営者として、この制度の存在をきちんと知っておくことが、スタッフを守ることにつながります。
介護休業を取得するには、いくつかの条件があります。「申し出れば誰でもすぐに取れる」というわけではありませんので、まずここをしっかり押さえておきましょう。
まず、介護の対象となる家族(対象家族)についてです。配偶者・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫が対象です。同居や扶養の有無は問いません。
次に、介護が必要な状態(要介護状態)についてです。これが大切な要件です。対象家族が「常時介護を必要とする状態が2週間以上続く見込みであること」が条件になります。具体的には、歩行・排泄・食事など日常の動作に継続的な助けが必要な状態です。介護保険の要介護認定を受けていることは、必ずしも必要ではありませんが、その状態であることが前提です。
また、取得できる従業員の範囲についても確認が必要です。原則としてすべての従業員が対象ですが、労使協定(ろうしきょうてい=会社と従業員の代表者が書面で取り交わした約束ごと)を結ぶことで、勤続1年未満の従業員や週2日以下の勤務など一定の方を対象外とすることができる場合があります。自社に労使協定があるかどうかも確認しておきましょう。
実は、育児・介護休業法は2025年(令和7年)4月1日に改正されており、介護に関するルールにもいくつか変更がありました。相談を受けた経営者の方に、まず知っておいていただきたい点を2つご紹介します。
1つ目は、介護休暇(かいごきゅうか=通院の付き添いなど短時間の対応に使う、年5日を限度とした休暇。前の見出しでご説明した介護休業とは別の制度です)の対象範囲です。これまでは労使協定を結ぶことで「勤続6か月未満の従業員」を介護休暇の対象から外すことができましたが、この改正でその除外規定がなくなりました。現在、労使協定で対象外にできるのは「週の所定労働日数が2日以下の従業員」に限られています。つまり、入社したばかりのスタッフからも、介護休暇の申し出があれば原則として応じる必要があるということです。
2つ目は、従業員から介護に直面した旨の申し出があったときの会社側の対応です。この改正により、会社は申し出を受けたら、①介護休業や短時間勤務などの両立支援制度の内容 ②その申出先 ③介護休業給付金に関すること、の3点を個別に伝え、あわせて利用する意向があるかどうかを面談などで確認することが義務づけられました。「なんとなく制度を案内する」のではなく、この3点を漏れなく伝えることがポイントです。なお、取得をためらわせるような伝え方(前例がないことを殊更に強調する等)は指針で禁止されていますので、あわせて注意しておきましょう。
この2つの改正は、企業規模にかかわらずすべての会社に適用されています。「まだ制度を見直していない」という場合は、この機会に就業規則や社内の対応フローを確認しておくことをおすすめします。
介護休業は、対象家族1人につき、通算93日まで取得することができます。この93日は3回に分けて取得することも可能です(たとえば最初に30日、次に30日、最後に33日、という形でも構いません)。
ここで大切なのは、「93日=介護にかかわる支援制度のすべて」ではないということです。介護休業のほかにも、法律では次のような制度が会社に義務づけられています。
これらは混同されがちですが、それぞれ別々の制度です。介護休業が終わった後も、短時間勤務などの措置を使いながら働き続けることができます。「休業が終わったら保護がなくなる」わけではありませんので、そのような伝え方はしないようにしましょう。
この記事を書いている社労士です

従業員から介護の相談を受けた経営者に向けて、介護休業の基本的な仕組みと取得条件をわかりやすく解説しています。2025年4月の法改正で新たに義務づけられた会社側の対応や、介護休暇・短時間勤務など関連制度との違いについても説明しています。制度を正しく知り、就業規則の整備や従業員への丁寧な情報提供を通じて、スタッフが安心して働き続けられる職場づくりを促しています。お気軽にご相談ください。
特定社会保険労務士/キャリアコンサルタント
山本 美紀
ミッシュ社会保険労務士事務所 代表/元教師の教育型労務コンサル
最終更新日:2026年7月4日
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それでは、実際に従業員から介護の相談を受けたとき、経営者として何をすればよいのでしょうか。1つずつ見ていきましょう。
顧問先の経営者の方からも、「こういう場合はどうなるの?」というご質問をよく受けます。いくつか気をつけておきたい点をお伝えします。
「介護休業を取ったら戻れないのでは」という不安を従業員に与えないことが重要です。復職を前提とした制度ですので、「休んだら居場所がなくなる」と感じさせるような言動は、いわゆる「マタニティハラスメント」や「ケアハラスメント」と呼ばれる「妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメント」として問題になる可能性があります。「休んでいい、戻ってきてほしい」という姿勢を伝えましょう。
申し出の方法・期限にも決まりがあります。従業員は、休業開始予定日の2週間前までに会社へ書面などで申し出ることが原則です。突然の申し出であっても頭ごなしに断ることはできませんが、手続きのルールを社内で整えておくと、お互いにスムーズです。
介護休業中の社会保険料(しゃかいほけんりょう=健康保険や厚生年金の保険料)の扱いについても確認が必要です。育児休業中とは異なり、介護休業中は社会保険料の免除制度が現時点では設けられていません。具体的な取り扱いや計算については、社会保険労務士にご相談いただくことをお勧めします。介護休業中は就労していませんから、会社から給与が支給されないケースがほとんどです(一部、休業中でも最低保障として給与が出る会社もあります)。普段は、給与から社会保険料や住民税が天引きされた手取り額が振り込まれてますが、天引きする給与がない休業中は、事前に会社と約束をして、期日に社会保険料を会社の指定口座に振り込むか、あるいは復帰後に少しずつ会社に返していくという方法を取ります。
介護休業制度は、スタッフが「介護か仕事か」で悩まずに済むよう、法律が用意した大切な仕組みです。経営者としてまずすべきことは、この制度を「知ること」。そして、相談してくれたスタッフに対して、正確な情報と温かい姿勢で向き合うことです。
就業規則の整備ができていない、申請の手続きをどう整えればよいか分からない、そういったお悩みは、早めに社会保険労務士に相談しておくことで、いざというときに慌てずに対応できます。制度を知り、備えておく。それが、スタッフが長く安心して働ける職場づくりへの近道だと、私は思っています。
「うちはまだ小さいから関係ない」ではなく、人を雇っている以上、どの会社にも起こりうる話です。一緒に、安心して働き続けられる職場を目指していきましょう。
【参考・出典】
厚生労働省「育児・介護休業法について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
厚生労働省「介護休業給付について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158500.html
厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし〜令和7年4月1日、10月1日施行対応〜」(2025年4月の法改正の詳細)
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000355354.pdf
総務省「就業構造基本調査」(介護・看護を理由とする離職者数の根拠)
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/index.html
この記事は、社会保険労務士として日々の労務のご相談のなかで実際にお受けするご質問をもとに書いています。最新の法令や個別のご事情については、お気軽にご相談ください。
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