2026.07.23

はじめて人を雇った。求人を出して、面接をして、ようやく「この人に来てほしい」と思える方に出会えた。そんなとき、「内定を出す」という大きな一歩を踏み出すわけですが——そのあとの手続き、きちんとできていますか?
「口頭で『採用します』と伝えればいいのでは?」「給料と勤務日を話せば大丈夫でしょ?」と思っていらっしゃる方も多いのですが、実は内定通知には法律で定められたルールがあります。特に2024年4月からルールが変わり、以前よりも「書面で明示しなければならない項目」が増えました。
今日は、内定を出したあとに必ずやっておきたい労働条件の明示(ろうどうじょうけんのめいじ=採用が決まった人に、働く上でのルールや条件を書面できちんと伝えること)のルールを、1つずつ丁寧に解説します。
まず「内定」という言葉の意味から確認しておきましょう。
法律の言葉では、内定とは「始期付解約権留保付労働契約」(しきつきかいやくけんりゅうほつき ろうどうけいやく)と呼ばれています。難しい名前ですが、かみ砕くと「就業開始日を先に決めて、一定の条件がある間は取り消せる権利を残した、いわゆる『仮の労働契約』」という意味です。
つまり、内定を出した時点ですでに労働契約が始まっていると裁判所は判断しています(最高裁・昭和54年7月20日判決)。「本採用になるまでは契約ではない」という感覚でいると、思わぬトラブルのもとになります。
だからこそ、内定を出したらできるだけ早く労働条件を書面で明示することが大切です。これは「親切のためにやること」ではなく、労働基準法(ろうどうきじゅんほう)によって会社に義務づけられていることです。
労働基準法第15条では、労働者を雇い入れるときに必ず書面(またはメール・PDFなどの電磁的な方法)で労働条件を明示する義務があると定められています。口頭だけでの説明は認められません。
書面で必ず明示しなければならない主な項目は次のとおりです。
これらは「絶対的明示事項」と呼ばれ、省略は一切認められません。逆に言えば、これだけは必ず雇用契約書や労働条件通知書(ろうどうじょうけんつうちしょ=採用時に会社が従業員へ渡す、働く条件を書いたお知らせ文書)に書いておく必要があります。
2024年4月1日に労働基準法施行規則(ろうどうきじゅんほうしこうきそく)が改正され、明示しなければならない項目が新たに追加されました。これは比較的新しい変更なので、「以前の知識のまま」でいると対応が漏れる可能性があります。1つずつ確認していきましょう。
(1)就業場所・業務の変更の範囲
採用時の就業場所や業務の内容だけでなく、「将来、会社がどこまで変更できるか」という範囲も明示することになりました。たとえば「転勤の可能性があるか」「業務の種類を変える可能性があるか」といったことを、最初に書面で伝えておく必要があります。
(2)有期雇用の場合は「更新上限」の有無
パートやアルバイト、契約社員など期間を決めて雇う(有期雇用)場合には、「更新の上限があるかどうか(たとえば最大3年まで、など)」を明示しなければなりません。また、最初に「更新上限あり」と伝えていなかったのに後から設定する場合には、事前に説明することが必要です。
(3)無期転換申込権に関する説明
有期雇用の方が同じ会社で5年を超えて働いた場合、期間の定めのない雇用(無期雇用)に転換を申し込む権利が生まれます(無期転換申込権=むきてんかんもうしこみけん)。この権利が生じる契約の更新時には、本人にその旨を書面で伝えることが必要になりました。
これらの改正は、「契約内容を後からこっそり変えられた」「知らなかった」というトラブルを防ぐための変更です。経営者にとっては少し手間に感じるかもしれませんが、最初にきちんと伝えておくことが、結果的にトラブルの予防になります。
今使っている労働条件通知書の雛形を今一度見直しましょう。古い雛形のまま使用するのは禁物です。
この記事を書いている社労士です

内定後に必要な労働条件明示の義務と、2024年4月改正で追加された新しい明示項目をわかりやすく解説しています。書面の整備が会社と働く人の両方を守ることにつながります。採用書類に不安がある方は、一度ご相談ください。お気軽にご相談ください。
特定社会保険労務士/キャリアコンサルタント
山本 美紀
ミッシュ社会保険労務士事務所 代表/元教師の教育型労務コンサル
最終更新日:2026年7月23日
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ここで「内定通知書」と「労働条件通知書(または雇用契約書)」の役割を整理しておきましょう。
内定通知書は、「あなたを採用することに決まりましたよ」と伝えるための文書です。法律上の義務というよりも、採用の意思を丁寧に伝えるための書類という位置づけです。入社予定日や提出書類の案内などを記載することが多いです。
一方、労働条件通知書(または雇用契約書)は、先ほどお伝えした「法律で義務づけられた明示項目」を書面で渡すための書類です。この2つは別物であることを意識してください。
実務的には、内定通知書と労働条件通知書を一緒のタイミングで渡すか、「雇用契約書」としてまとめて1枚にすることもあります。大切なのは形式ではなく、法律で定められた項目が書面で漏れなく伝わっているかどうかです。
なお、厚生労働省は「労働条件通知書」の参考様式を無料で公開しています。はじめて作る場合はこちらを活用するとスムーズです(記事末尾に出典を記載しています)。
「やっぱり採用しない」という内定取り消し(ないていとりけし)は、法律上、解雇(かいこ=会社から一方的に辞めさせること)に準じるものとして扱われます。つまり、理由なく、あるいは合理的でない理由での内定取り消しは、法的に問題になる可能性があります。
たとえば「業績が少し落ちたから」「もっと良い人が見つかったから」といった理由での取り消しは、認められない可能性が高いと考えられています。
一方で、「採用選考の際に重要な虚偽の申告があった」「健康上の理由で就労が不可能であることが明らかになった」などの場合は、取り消しが認められるケースがあります。ただし、その判断は状況によって異なり、グレーゾーンも多いので、迷ったときは必ず専門家にご相談ください。
また、内定者を不安にさせないためにも、内定後の連絡や情報共有を丁寧に行うことが、信頼関係の土台になります。「内定を出したら、あとは入社日まで放置」というのは避けたいところです。
それでは、内定通知と労働条件明示について、経営者の方に今すぐ確認していただきたいことを整理しておきましょう。
私が顧問先の経営者からご相談を受けていると、「採用のときの書類はなんとなく作ったけれど、ちゃんとしているかどうか自信がない」とおっしゃる方が少なくありません。採用は「入り口」だからこそ、ここを丁寧に整えておくことが、その後の関係をずっと良くしてくれます。
内定を出すということは、新しい人との労働契約がスタートするということです。そのスタートに、きちんとした書面で条件を伝えておくことが、会社を守ることにも、働く人を守ることにもつながります。
「うちはずっとこのやり方でやってきた」という場合も、2024年4月のルール改正を機に、一度書類を見直してみてください。難しく感じたとしても、一人で抱え込む必要はありません。
採用の入り口を丁寧に整えることが、長く一緒に働ける職場づくりの第一歩です。一緒に、会社も人も安心できる採用の仕組みを目指していきましょう。
【参考・出典】
この記事は、社会保険労務士として日々の労務のご相談のなかで実際にお受けするご質問をもとに書いています。最新の法令や個別のご事情については、お気軽にご相談ください。
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