2026.10.26

「うちにはハラスメントの相談窓口なんて、作れるわけがない。」そう思っている経営者の方は、少なくないのではないでしょうか。人事部もなければ、専任の担当者もいない。社長と従業員の距離が近い小さな会社だからこそ、むしろ相談しにくい空気が生まれてしまっている——そんなご相談を、私も顧問先からよくお受けします。
今日は、そんな「小さな会社でのハラスメント相談窓口の作り方」についてお話ししたいと思います。実は、大がかりな組織を作らなくても、順番さえ押さえれば、小さな会社でもしっかりした体制を整えることができます。ハラスメント相談窓口の整備は、今や会社の義務でもあります。一つずつ、みていきましょう。
まず、誤解されがちな点からお伝えします。「うちは小さい会社だから、相談窓口の設置は努力目標でしょう?」と思われている方もいらっしゃいますが、それは少し異なります。
労働施策総合推進法(ろうどうしさくそうごうすいしんほう)・男女雇用機会均等法(だんじょこようきかいきんとうほう)・育児・介護休業法(いくじかいごきゅうぎょうほう)の改正により、すべての事業主に対して、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント・マタニティハラスメントなどへの防止措置が義務づけられています(2022年4月から中小企業にもパワハラ防止措置が義務化)。「従業員が何人以上いたら」という人数の基準はなく、1人でも雇っていれば対象です。
義務の内容は大きく4つに整理できます。
相談窓口の設置は、この「相談に応じる体制を整えること」にあたります。大きな会社のような専用部署は不要ですが、「誰に、どうやって相談するか」を従業員が分かる形にしておくことが求められます。
では、なぜ小さな会社では相談窓口を作ることが難しいと感じるのでしょうか。研修でこの話をすると、経営者の方からよく出るのが次のような声です。
従業員側が感じるこうした不安も、実際の相談でよく聞こえてきます。人数が少ないからこそ、誰かに相談したことがすぐバレてしまう——そのリスクが、相談を止めてしまうのです。
ここを解決するカギは、「社内窓口だけに頼らない」ことです。これが、小さな会社での体制づくりの核心です。
それでは、具体的に会社は何をすればよいのでしょうか。順番に、みていきましょう。
ステップ1:社内の「相談担当者」を1人決める
まず、社内に相談を受け付ける担当者を最低1人決めます。経営者本人・人事担当・ベテランのリーダー職など、誰でも構いません。ただし、「相談内容を口外しない」「相談したことを理由に不利益な扱いをしない」の2点を、担当者に必ず理解してもらうことが前提です。
経営者が唯一の候補という場合も、「まず経営者に相談する」という窓口を明示するだけで、「どこにも言えない」状態を防ぐことができます。
ステップ2:社外の相談先(外部窓口)を組み合わせる
小さな会社で特に大切なのが、このステップです。社内だけでは中立性に限界がありますから、外部の相談先をセットで用意しておくことが有効です。具体的には次のような選択肢があります。
こうした外部の相談先を就業規則(しゅうぎょうきそく=会社のルールブックのようなもの)や社内のお知らせに一行記載しておくだけで、「最終的に逃げ場がある」という安心感が生まれます。
ステップ3:「相談窓口があること」を従業員に知らせる
窓口を作っても、従業員に伝わっていなければ機能しません。次の方法で周知しましょう。
特に3つ目の「経営者自身が声に出すこと」は、どの会社でも大きな効果があります。制度より先に、経営者の姿勢が職場の空気を変えます。
この記事を書いている社労士です

ハラスメント相談窓口の設置は規模を問わずすべての会社に義務があります。社内担当者の選定・外部相談先との組み合わせ・就業規則への規定追加という3つのステップで、小さな会社でも実践できる体制の整え方を解説しています。お気軽にご相談ください。
特定社会保険労務士/キャリアコンサルタント
山本 美紀
ミッシュ社会保険労務士事務所 代表/元教師の教育型労務コンサル
最終更新日:2026年10月26日
初回相談無料
窓口を作ることと同じくらい大切なのが、「実際に相談が来たときにどう動くか」を事前に決めておくことです。厚生労働省が示すハラスメント対応の基本的な流れは次のとおりです。
特に注意が必要なのは、「相談者が不利益を受けないこと」の保障です。「相談したら逆に居づらくなった」「相談したことを行為者に伝えられた」という対応は、法律上も問題になりますし、会社への信頼を一気に失わせます。
小さな会社では担当者1人で抱え込まず、対応が難しい案件は顧問の専門家や外部機関に早めに相談することが大切です。「どこからが専門家に頼むべきケースか分からない」という場合も、まず社労士や弁護士に状況を話してみることをおすすめします。
体制を整えたら、それを就業規則(会社のルールブックのようなもの)に明文化しておくことが必要です。「就業規則に書いてある」ということが、会社としての本気度を従業員に示すことになります。
盛り込むべき内容の例は次のとおりです。
「就業規則にどう書けばいいか分からない」「今ある就業規則が古いまま」という場合は、専門家に相談しながら整備するのがいちばんの近道です。現状の規定を確認してから必要な修正を加えるだけで、大幅に変わることも多いです。
ハラスメント相談窓口の整備は、「従業員を守るもの」であると同時に、「会社を守るもの」でもあります。相談窓口がなく、トラブルが深刻化してから対処しようとすると、会社のダメージは計り知れません。逆に、「何かあれば相談できる」という安心感がある職場は、従業員が長く働き続けやすい環境でもあります。
「大がかりな仕組みが必要」と身構えなくて大丈夫です。今日お伝えした3つのステップ——社内担当者を決める・外部の相談先を組み合わせる・従業員に周知する——からまず始めてみてください。そして、就業規則への反映や具体的な対応手順の整備は、専門家と一緒に進めていきましょう。
「うちの会社、今のままで大丈夫だろうか」と感じたときが、体制を整えるいちばんのタイミングです。困ったときは、ひとりで抱え込まずに気軽にご相談ください。会社も人もあきらめない——そのお手伝いができればと思っています。
【参考・出典】
この記事は、社会保険労務士として日々の労務のご相談のなかで実際にお受けするご質問をもとに書いています。最新の法令や個別のご事情については、お気軽にご相談ください。
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