労務管理と社会保険の手ほどき
〜はじめての経営と労務のあいうえお〜

2026.09.03

カスタマーハラスメント防止が2026年10月に義務化されます


カスタマーハラスメント防止が2026年10月に義務化されます

「お客さまからひどい言葉を浴びせられて、スタッフが傷ついている」「クレームが度を超えていて、どこまで対応すればいいか分からない」——そんなご相談を、顧問先の経営者さんからよくいただくようになりました。

カスタマーハラスメント(略してカスハラ)という言葉を耳にする機会が増えてきましたが、「具体的に何がカスハラなのか」「会社としてどう対応すればいいのか」と、まだ手探りの状態にある事業所も多いのではないでしょうか。今日はそんなカスタマーハラスメントにまつわる話をしたいと思います。

2026年10月、いよいよカスタマーハラスメント防止が法律上の義務となります。介護事業所をはじめ、お客さまと直接向き合うお仕事をされている経営者のみなさんにとって、今すぐ知っておいていただきたい内容です。1つずつ丁寧に見ていきましょう。


カスタマーハラスメントとは何か——どこからが「カスハラ」になるの?

まず、「カスタマーハラスメント」という言葉の意味を整理しましょう。

厚生労働省は、カスタマーハラスメント(カスハラ)を次のように定義しています。

「顧客・取引先・施設利用者などから受ける、著しく迷惑な言動であって、就業環境を害するもの」

少しかみ砕くと、「お客さまや利用者の方からの言動が、社会的に見て明らかに行き過ぎていて、従業員が働きにくい状態になること」と言えます。

では、どんな行為が「行き過ぎ」にあたるのでしょうか。厚労省のガイドラインでは、次のような行為が例として挙げられています。

  • 長時間にわたって怒鳴り続ける、繰り返し同じクレームで電話をかけてくる
  • 「土下座しろ」「クビにしてやる」など、人格を傷つける言葉を浴びせる
  • SNSへの投稿をちらつかせ、脅す
  • 物を投げる、殴るそぶりをするなど、身体的な威圧
  • 要求の内容が、どう考えても社会的に認められないほど過大である(例:「全額返金のうえ慰謝料を払え」など)

ポイントは「正当なクレームかどうか」と「対応の方法が行き過ぎていないか」の2点を合わせて判断するところです。内容が正当な不満であっても、言い方や程度が明らかに社会的な常識を外れていれば、カスハラに該当する可能性があります。

特に介護の現場では、利用者ご本人だけでなく、そのご家族からの言動が問題になるケースも少なくありません。「お世話になっているから言い返せない」と我慢しているスタッフがいる職場は、特に注意が必要です。

2026年10月から何が変わるのか——カスタマーハラスメント防止が会社の義務になります

改正労働施策総合推進法(ろうどうしさくそうごうすいしんほう=働く人の環境をよくするための総合的な法律)により、2026年10月1日から、すべての事業主(会社や個人事業主)に対して、カスタマーハラスメントへの対応が法律上の義務となります。

「大企業の話でしょ?」と思われた方もいるかもしれませんが、今回の改正は企業規模に関係なく、すべての事業主が対象です。従業員が1人でもいれば、対応が求められます。

具体的に、会社が行わなければならないこととして、厚生労働省の指針(ガイドライン)では次の対応が示されています。

  • 事業主の方針の明確化と周知・啓発:カスタマーハラスメントを許さないという会社のスタンスを、従業員に伝え、共有する
  • 相談体制の整備:従業員がカスハラを受けたときに、相談できる窓口や担当者を設ける
  • 被害に遭った従業員へのフォロー:相談を受けたら、事実を確認し、適切な対応をとる(休暇の取得、業務の変更、必要に応じてメンタルヘルスのケアなど)
  • 再発防止のための取り組み:問題が起きた後も、同じことが繰り返されないよう手を打つ

これらは「できればやってほしい」ではなく、法律が会社に求める対応です。「うちは小さいから関係ない」では済まなくなりますので、今のうちに体制を整えることが大切です。

この記事を書いている社労士です

山本 美紀

2026年10月施行の改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント防止への対応が全事業主の義務となります。まず会社方針の明文化・相談窓口の設置・現場の対応基準づくりの3ステップから着手することが大切です。スタッフを守ることが、利用者へのサービスの質と職場の定着率を守ることにもつながります。お気軽にご相談ください。

特定社会保険労務士/キャリアコンサルタント

山本 美紀

ミッシュ社会保険労務士事務所 代表/元教師の教育型労務コンサル

最終更新日:2026年9月3日

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経営者としてまず動くべきこと——カスタマーハラスメント対策の具体的な3つのステップ

「では、実際に何から始めればいいのか」と迷われる経営者の方は多いと思います。研修でこの話をすると、「対策が必要なのは知っていたけど、具体的に何をすればいいか分からなくて後回しにしていた」という声をよくいただきます。ここでは、まず取り組んでいただきたい3つのステップを整理します。

ステップ1:会社としての方針を言葉にする

「カスタマーハラスメントは許容しない」という会社の立場を、文書として明確にしましょう。就業規則(しゅうぎょうきそく=会社のルールブックのようなもの)に条項を設けるか、別途「カスタマーハラスメント対応方針」として作成し、従業員に周知します。「会社がスタッフを守ってくれる」という安心感は、定着率にも直結します。

ステップ2:相談できる仕組みをつくる

カスハラを受けたスタッフが、誰に、どのように報告・相談すればよいかを明確にします。小規模な職場では「経営者に直接言う」で十分な場合もありますが、「言いにくい」と感じるスタッフが黙って我慢しないよう、相談しやすい雰囲気をつくることが重要です。相談記録を残す習慣も、後々のトラブル対応に役立ちます。

ステップ3:現場が迷わないための「対応の基準」を決める

「どこからがカスハラで、どう対応するか」を現場任せにしていると、スタッフが孤立しやすくなります。たとえば「同じ内容のクレームが3回以上繰り返された場合は上長に引き継ぐ」「人格を否定する言葉を受けた場合はその場で対応を中断し、報告する」など、具体的な行動基準をあらかじめ決めておくと、現場のスタッフが一人で抱え込まずに済みます。

「お客さまは大切」だからこそ——カスタマーハラスメント対策は職場と利用者の関係を守る取り組み

カスタマーハラスメント対策というと、「お客さまに対して厳しくなるのでは」と心配される経営者の方もいらっしゃいます。でも、実はそうではありません。

スタッフが安心して働ける環境があってこそ、利用者やお客さまへの丁寧なサービスが続けられます。疲弊したスタッフが休職や離職をすれば、残ったスタッフへの負担が増し、サービスの質も下がります。カスタマーハラスメントを放置することは、結果として利用者への良いサービスを損なうことにもつながるのです。

「会社を守ること」と「従業員を守ること」は、決して対立しません。スタッフが守られている職場は、お客さまや利用者にとっても、安心して使い続けられる場所になります。

また、カスタマーハラスメントへの対応を整備することで、採用の場面でも「この会社はスタッフを大切にしている」という信頼につながります。特に人材確保が難しい介護業界等では、職場の安心感が採用・定着の大きな武器になります。

まとめ——2026年10月までに、まず「方針の明文化」から始めましょう

今日お伝えしたことを振り返ります。

  • カスタマーハラスメントとは、顧客・利用者などからの著しく迷惑な言動で、従業員の働く環境を害するもの
  • 2026年10月1日から、すべての事業主に対してカスタマーハラスメント防止の対応が法律上の義務になる
  • まず「会社の方針の明文化」「相談できる仕組みづくり」「現場の対応基準の設定」の3つから着手する
  • スタッフを守ることは、利用者へのサービスの質を守ることにもつながる

「うちの職場でも、もしかしたら似たようなことが起きているかもしれない」「就業規則をどう直せばいいか分からない」と感じた方は、ぜひ一度ご相談ください。一緒に、スタッフが安心して長く働ける職場づくりを考えていきましょう。

【参考・出典】

  • 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33backdrop_00003.html
  • 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策のための指針(令和7年)」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/customer_harassment.html

この記事は、社会保険労務士として日々の労務のご相談のなかで実際にお受けするご質問をもとに書いています。最新の法令や個別のご事情については、お気軽にご相談ください。

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